こんにちは。STケアマネのナカマル@NBTKST2222です。
10年間ほど言語聴覚士(ST)として飲み込みや言葉の訓練のプロとして仕事をしていました。
現在は、言語聴覚士でありケアマネージャーであり、現場の介護スタッフとして介護施設で働いています。
このブログでは、介護・医療職が悩みがちな
○臨床(言語聴覚士の専門の1つである摂食・嚥下を中心)のこと
○お金に関係すること
○職場の人間関係について
について発信しています。
病院では様々な原因の嚥下障害の患者さんと関わる機会がありますが、その中で「このケースはどのように考えようかな・・・」と悩むケースは多いはず。そこで今回は自分がSTになりたての頃に色々と悩んだケースを少しアレンジしてブログで紹介したいと思います。Sリハ塾のyoutubeにも投稿しているのでそちらも参考にしてみてください!
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また、嚥下障害の症例検討パート①~パート③はこちらから読めるようになっています。
事例紹介

既に食事をしている人に嚥下造影検査をすると実は誤嚥していた。
STであればこのようなケース一度は経験したことがあるのではないでしょうか。
そして、食事をすでに提供している状況であるため、このまま出し続けていいのか。誤嚥性肺炎のリスクを考慮して中断するべきなのか悩むケースは案外多いのではないでしょうか。
このようなケースではどのように判断すればよいのかを一緒に考えていきましょう。

まずは事例紹介です。今回の事例は急性硬膜下血腫で入院となった80歳代女性の方。
食事開始してから発熱なく順調に経口摂取が進んでいると感じており、食事形態のUPのために嚥下造影検査(VF)をしてみたところ誤嚥していたことが発覚。
食事場面ではムセを含め誤嚥症状をほとんで認めなかったため、嚥下造影検査をしなかったら誤嚥に気づけていなかったと思われるケースです。
今回のポイント

今回も事例を紐解いていくポイントを3つ挙げているので1つずつ解説していきます。
80歳代と高齢である

ポイント1つめは年齢が80歳代と高齢であるところです。
なぜ80歳代で高齢であるところがポイントになるのか。何故なら、嚥下障害のない高齢者も実は誤嚥しているという方が一定数いるからです。
つまり、今回は急性硬膜下血腫により嚥下障害が出ていますが、そもそも嚥下障害がなくても誤嚥していた可能性があるのです。
そう考えると、誤嚥しているから「すぐに絶食にすべき」とか、「もう少し嚥下機能が改善してから食事を再開すべき」という考えは高齢者の嚥下障害の方には当てはまらないことが多いことも知っておきましょう。
また、80歳代と高齢の方をもし、絶食にする必要があると判断するなら、同時に代替栄養をどうするかを考える必要があります。高齢の方に点滴だけをするのなら、体内に摂取しないといけないカロリーが足りなくなるので、結果的に嚥下機能が低下していく可能性があります。かといって経鼻胃管は、苦痛が生じたり手足の拘束が必要になることでQOLの低下につながるリスクがあります。
誤嚥しているからといって、絶食にしたところで、様々なリスクがあるためそれを把握した上で、総合的にQOLの低下につながらないような方向性を立てる必要があります。
また、食事を中止したからと言って誤嚥性肺炎を予防できるわけではありません。そこも理解した上で食事を中止した方がいいのかどうかを考える必要があります。
誤嚥症状がなかったが、検査すると実際には誤嚥していた

誤嚥症状は普段ないのに嚥下造影検査をしたら実際には誤嚥していた。ここもポイントの1つです。
誤嚥していたと言っても、嚥下造影検査は、ほんの1口から数口の飲み込みの状況を見る事しかできません。そのため、普段、どれくらいの量や頻度で誤嚥しているかを判断することは難しいと言えます。検査の中で、たまたま誤嚥した可能性もありますし、普段から常に誤嚥している可能性もあります。そのため、1回の誤嚥だけで絶食か食事の継続かを判断するのは避けるようにしましょう。
食事を継続するリスクとしては、一気に重篤化する可能性も知っておく必要があります。誤嚥性肺炎は誤嚥する量や細菌の数が多ければ、当然誤嚥性肺炎の重症度は高くなります。
普段からムセなどの誤嚥症状があれば気を付けることができますが、誤嚥症状がないと自覚症状もないので、誤嚥する量が増える傾向にあります。結果的に一気に重症度の高い誤嚥性肺炎になる可能性もあるのです。
また、嚥下造影検査は、普段の食事とは違う環境になるので実際に食事場面と乖離する可能性もあります。バリウムなどの造影剤を使ったり、多くの人が見守る中で食物を飲み込む必要があります。対象となる方にとって、普段の食事よりはるかに緊張しやすい環境になります。
バリウムを使うことでいつも以上に食物が飲み込みにくくもなります。
そのため、普段の食事で誤嚥していなくても検査場面という、特殊な環境のため誤嚥してしまった可能性も考慮する必要があるのです。
嚥下造影検査は、誤嚥を検出するのに非常に有用なツールであることは間違いありません。ですが、その反面、普段の食事場面とは違う環境であることも理解しておく必要があります。
誤嚥はしているが現時点では誤嚥性肺炎の発症や発熱は認めない

3つめのポイントは、誤嚥はしているが、現時点で誤嚥性肺炎の発症や発熱を認めていない点です。
誤嚥したからといって、すぐに誤嚥性肺炎を発症するとは限りません。誤嚥しているのが検査で分かるとついつい食事形態を下げたり、食事を中止したりすることを優先してしまいがちです。
しかし、誤嚥性肺炎の予防で最も大事なのは口腔ケアの質を上げることです。口腔ケアの回数を見直したり、ブラッシングの方法を見直したりすることが大事になります。
また、誤嚥症状がなくても、採血やレントゲンにて軽度のうちに誤嚥性肺炎を発見することができれば肺炎が重度化する前に対策を取ることができます。そのため、誤嚥症状がなくても、採血やレントゲンを撮るきっかけがあれば誤嚥性肺炎の兆候がないか確認するようにしましょう。
今回の事例の方向性は?

ここまでポイントを整理しながら解説しましたが、結局のところ今回のようなケースに関してどのような方針で進めればいいのか個人的な意見を交えながら伝えるなら・・・
食事を止めても誤嚥性肺炎を予防できるわけではないし、食べることで誤嚥性肺炎になるわけでもないの、誤嚥していることを頭に入れながらこのまま経口摂取を継続していいのではないかと考えます。
ただし誤嚥症状がないことで誤嚥に気づかないままであれば一気に重篤な肺炎になる可能性もあることも理解しておく必要があります。
最終的な判断は、本人や家族に誤嚥している事実と誤嚥性肺炎になるリスクや症状を知ってもらった上で、食べる選択をするのか、食べない選択をするのかを判断してもらうのがベターだと思います。
まとめ

まとめですが、高齢者の場合、誤嚥症状がなくても誤嚥してしまっているケースは一定数存在します。そのため誤嚥したらすぐに絶食と考えてしまうと多くの高齢者は経口摂取ができないままになってしまう可能性もあります。
だからと言って必ずしも食事を継続することが正しいとは限りません。全身状態やQOLなど総合的に考えていく事が大事になりますし、何よりも大事なのは、食事を継続するメリット・デメリットを整理した上で家族や本人にどのような方針で進めていくのかを判断してもらうのが大事になります。
勿論、食事を継続するかどうかは主治医の判断になると思いますが、STや看護師が意見を求められることもあると思うので、同じようなケースに遭遇した場合は参考にしていただけたらと思います。