こんにちは。STケアマネのナカマル@NBTKST2222です。
10年間ほど言語聴覚士(ST)として飲み込みや言葉の訓練のプロとして仕事をしていました。
現在は、言語聴覚士でありケアマネージャーであり、現場の介護スタッフとして介護施設で働いています。
このブログでは、介護・医療職が悩みがちな
○臨床(言語聴覚士の専門の1つである摂食・嚥下を中心)のこと
○お金に関係すること
○職場の人間関係について
について発信しています。
病院では様々な原因の嚥下障害の患者さんと関わる機会がありますが、その中で「このケースはどのように考えようかな・・・」と悩むケースは多いはず。そこで今回は自分がSTになりたての頃に色々と悩んだケースを少しアレンジしてブログで紹介したいと思います。Sリハ塾のyoutubeにも投稿しているのでそちらも参考にしてみてください!
youtubeはこちらから視聴下さい👇
(180) こんなケースはどうする?嚥下障害の症例検討PART3 – YouTube
また、嚥下障害の症例検討パート1、パート2もそれぞれ参考に是非、読んでみてください。
事例紹介

事例紹介です。今回の事例はくも膜下出血を発症した60歳男性です。比較的年齢が若いケースとなります。発症当初は、意識障害もあり嚥下訓練が思うように進まず、誤嚥性肺炎も併発していましたが、意識レベルと嚥下機能が向上して1か月経過した時点で何とかゼリーを食べれるようになった。
ただし、意識レベルも日によってムラがあり、食事を提供するレベルには至っていない状況。食事を出せるようになるまでにはまだまだ時間がかかりそう。
医師からは、食事提供が難しいなら胃瘻造設を検討しないといけないと言われてしまった。
病院のSTや看護師ならあるあるなケースかもしれませんが、こういうケースに遭遇した場合、どうすればいいか考えていきたいと思います。
今回のポイント3つ

今回のケースのポイントを3つ挙げました。
①機能的な改善の見込みはあるか
②発症から1か月して食事提供ができていない現状
③経鼻胃官の侵襲性や嚥下訓練のしづらさ
なぜこの3つがポイントになるのか1つずつ解説してきます。
機能的改善の見込みはあるか

まずはポイント1つめ。機能的改善の見込みがあるかどうか。なぜ機能的改善の見込みがあるのかどうかをお伝えします。
機能的改善が見込めなければ早期に胃ろう造設をした方が予後が良い可能性があるからです。何故なら栄養管理が十分でないと徐々に機能低下を招く可能性が高いからです。体内に取り入れるエネルギーが足りない状態でどれだけ訓練を頑張っても効果は得られません。それくらい栄養管理は大事なのです。
今回のケースに関しては、60歳代と若いですよね。この年齢だと栄養管理が適切に行われれば嚥下機能が低下していくわけではなく、改善する可能性は十分にあると思います。
1か月かけてゼリーを食べれるようになった経過もあり、あと1か月もすれば食事の提供ができる可能性もあります。
とはいえ、もっと時間がかかる可能性もあります。後からも詳しく記載しますが、経口摂取までに時間を要する場合は、いったん、胃ろうを造設してから嚥下訓練を進める方が予後的にも良かったりします。
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発症から1か月して食事が提供できていない現状

続いてポイント2つめ。発症から1か月して食事が提供できていない現状。
なぜ、これがポイントになるのか。上の画像を見ていただくと、発症から28日以上経腸栄養が必要な患者では胃ろう造設を考慮していいと書いてありますね。これは脳卒中ガイドラインから引用しています。
また、胃ろうの方が経鼻胃管よりアルブミンの濃度が高く維持される。つまり、胃ろうの方が栄養が改善しやすいということも記載されています。
その他、胃ろうの方が経鼻胃管より食べる訓練が進めやすいともされています。詳細はポイント3つめで、記載をします。
今回のケースでは1か月してもまだまだ食事提供に至らない。つまり、経腸栄養が必要な患者に該当します。
脳卒中ガイドラインに沿って考えるならば、今回のケースで胃ろう造設を検討するのはエビデンスに則った考え方とも言えるのです。
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経鼻胃官の侵襲性や嚥下訓練のしづらさ

続いて3つめのポイント。経鼻胃管の侵襲性や嚥下訓練のしづらさ。
経鼻胃管の侵襲性とは具体的にどういう意味か説明をします。
経鼻胃管は、鼻から常に管を入れた状態です。インフルエンザや新型コロナウイルスの検査をしたことのある人は分かると思いますが、鼻に管を入れられるのは相当な辛さがあります。
しかも。感染を起こさないようにするためにも、定期的に鼻の管を入れ替える必要があります。相当な痛みや精神的な苦痛は想像できるのではないでしょうか。ちなみに胃ろうの場合は、半年に1回の胃ろうチューブの交換をするのが原則です。そのため、経鼻胃管の方が侵襲性が高いとされているのです。
また、鼻からのチューブが挿入されたままだと嚥下訓練の妨げにもなります。
経鼻胃管の場合は、鼻から通した管が常に食道を通っているため嚥下反射の時に、管が邪魔をします。そのため、思うように訓練が進まないケースも多いのです。
ポイントの整理と結論

ここまで3つのポイントを解説しました。ポイントを整理すると
①機能的な改善の見込みはあるか→時間はかかるが、改善は認めそう。
②発症から1か月して食事提供ができていない現状→脳卒中ガイドラインを参考にするならば胃ろうの造設は妥当。
③経鼻胃管の侵襲性や嚥下訓練のしづらだ→経鼻胃管はチューブの交換のたびに苦痛を伴うことになる。また、チューブが飲み込みの時の邪魔になるので、嚥下訓練がしづらい
これらを総合的に考えた場合一度、胃労を造設した上で3食経口摂取を目指す方法は妥当性があると個人的には考えます。心理的には、胃ろうにしなくても3食経口摂取までいける!と思うかもしれません。胃ろうはかわいそうと感じる人もいるかもしれません。
ですが、実際にこのようなケースは早期に胃ろうを造設して、十分な栄養を投与しながら嚥下訓練を進めた方が、結果的に予後が良い傾向にあることも知っておきましょう。
まとめ

まとめです。発症から1か月して食事提供ができていない現状を考えると、積極的な嚥下訓練を行うためにも1度、胃ろうを造設した上で嚥下訓練するのも選択肢の1つであることを忘れないようにしましょう。
たまに、「胃ろうは良くない。口から食べることに私はこだわりたい!!」とおっしゃる看護師さんもいます。気持ちは分かるのですが、胃ろうを作らないことにこだわって機能改善が遅れたり、3食経口摂取が難しくなるのでは本末転倒です。
胃ろうを造ったからと言って口からご飯を食べれないわけではないですし、最終的に胃ろうのチューブを抜去まで至るケースもあります。胃ろうそのものが悪でないことは強調しておきたいと思います。
勿論、考え方の1つであり、同じような症例すべてにおいてこの考えが正しいわけではないことはお伝えしておきます。
最後に
ここで終わりと思いきや、最後に紹介したい言葉があるので、それを紹介して今回のケースの解説を終わりたいと思います。

KTバランスチャート作成者であり、看護師の小山珠美先生のことばです。
「しょせん『胃ろう』は道具です。しかし、胃ろうは『あきらめの道具』ではない。生きたために必要な、さらなるリハビリテーションのための必要な栄養をきちんと体にとって次につなげるための道具なのである」
この言葉には個人的に非常に共感するところがあります。
胃瘻はどうしても悪い印象が先行してしまっていますが、嚥下障害に関わる介護・医療従事者は胃ろうそのものは良くも悪くもないことをしっかり押さえてほしいと思います。
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小山珠美先生が作成したKTバランスチャートに関してはこちらの記事を参照下さい。