こんにちは。STケアマネのナカマル@NBTKST2222です。
10年間ほど言語聴覚士(ST)として飲み込みや言葉の訓練のプロとして仕事をしていました。
現在は、言語聴覚士でありケアマネージャーであり、現場の介護スタッフとして介護施設で働いています。
このブログでは、介護・医療職が悩みがちな
○臨床(言語聴覚士の専門の1つである摂食・嚥下を中心)のこと
○お金に関係すること
○職場の人間関係について
について発信しています。
今回は他職種からよく質問されることのある「失語症」と「構音障害」の違いについてできるだけ分かりやすく解説していきます。youtubeの方も併せて参考にしていただけたらと思います。
はじめに

言語聴覚士として病院で働いていた時によく聞かれていた質問の1つが「失語症と構音障害の違いがよく分からないから教えて」でした。STからするとそれほど難しくはないのですが、両者の違いよく分からないって方は多いのではないでしょうか?
そこで今回は、失語症と構音障害の違いについて定義から鑑別方法までできるだけ分かりやすく解説していきたいと思います。
失語症と構音障害の症状の違いについて
では、早速ですが、失語症と構音障害の違いを見ていきましょう。まずはそれぞれの定義について確認していきます。
そもそも失語症とは

定義について上記の画像を参考にして下さい。改めて見ると本当、分かりづらいですね。正直言ってこの定義を読んで「なるほど。良く分かった」と思う人はいないはず。
失語症でよく例えられるのは、「外国に行ったイメージ」です。例えば、中国語を勉強したことない人がいきなり、気づいたら中国にいたとします。当然、言葉を話すこともできず、理解もできないですよね。書いたり、読んだりも難しいと思います。
でもジェスチャーや指差しなどで全くコミュニケーションがとれないわけでもないと思います。失語症の方はまさしくそういう状態にあるのです。
また、失語症にも重症度がありますから、全く話せなくなる人や全く理解が難しくなる人もいますが、多くの失語症の方は苦手になるといったイメージが正確だと思います。
そう考えると、中国語というより英語の感覚の方が近いかもしれませんね。
そもそも構音障害とは

では続いて構音障害の定義です。定義の内容は上の画像を参考にしてみて下さい。こちらも失語症の定義に負けず劣らず難しく書いてありますね。失語症の時と同じく「なるほど。良く分かった」と思う人はいないはず。
構音障害は失語症とは違って、発話の部分にのみ症状が現れます。定義に「発話を遂行する過程の障害」とありますが、まさにこの部分が構音障害の症状を指しています。
それぞれの症状を整理


失語症と構音障害の症状を整理したのが上の画像になります。それぞれの症状をしっかり把握できると何となく理解ができると思います。定義のところでも記載しているように失語症は全てのモダリティで、構音障害は発話に関する部分に影響がでるとうことを再認識して頂けると思います。
失語症と構音障害の鑑別について
続いて失語症と構音障害の鑑別方法について記載していきたいと思います。
鑑別が必要な理由について

鑑別方法を記載する前に、そもそもなぜ鑑別が必要なのかについても伝えたいと思います。
鑑別が必要な理由については、上の画像にもありますが、ずばり訓練方法が違うからです。
失語症は基本的にコミュニケーション方法の確立が目的になります。勿論、軽度の方は話す事や書くことなどを目標にすることもありますが。言葉はあくまでコミュニケーション手段の1つにすぎないため、様々なコミュニケーション手段を用いて意思疎通ができるようになるのが大事になります。
一方で、構音障害は話すことの障害であるため、訓練も話すことに特化した内容になります。話すこと以外のコミュニケーションは問題ないため、話すことそのものの訓練がだいじになるというわけです。具体的には、口や舌を反復的に動かしたり、筋力訓練をしたりするわけです。
つまり鑑別がうまくできないと、本来するべきはずの訓練と違うことをしてしまう可能性あがあります。そのため、失語症と構音障害はしっかりと鑑別を行い、それぞれ必要と思われる訓練をしていく必要があるのです。
では、どのように判断するのかを見ていきましょう。
病巣で判断

鑑別方法の1つめは病巣です。病巣といっても細かい部分を見ないといけないわけではありません。見るポイントは病巣が右脳なのか、左脳なのか。
何故なら、失語症は原則として左脳の脳卒中で起こることが多いからです。そのため、左脳に病巣がある場合は、失語症の可能性を考慮する必要がありますが、病巣が右脳のみの場合は、失語症の可能性はほとんどありません。(稀に右脳の脳卒中で失語症になる方がいますが確率的にはかなり低いとされてます。)
その反面、構音障害は左右問わず起こる可能性があります。
麻痺側で判断

鑑別方法2つ目は麻痺の有無による判断です。
そもそも、失語症と構音障害では原因が違います。
構音障害は麻痺や失調症状が原因で起こります。そのため、麻痺や失調症状により滑舌が悪くなるのが構音障害となります。
一方で、失語症の場合は、麻痺がないにも関わらず、言葉を言い間違えたりしますし、理解面や書字にも影響を及ぼします。
同じ高次脳機能障害で失行がありますが、失行により、模倣動作ができないのか。それとも麻痺により手を動かす事ができないのか。原因が違いますよね。
失語症=高次脳機能障害 構音障害=麻痺や失調症状 と考えるようにしてみて下さい。
鑑別の困難ケース

とはいっても実際の臨床場面では失語症と構音障害の鑑別はそんなにシンプルなものではありません。
〇右脳の病巣だけど失語症
〇失語症と構音障害の合併例
〇失語症を使わない失読や失書
〇認知症の方が失語症になる
他にも色んなケースがあり、STでも迷うことがあるのも事実です。
他職種の方に知っていただきたいのは、失語症と構音障害のおおまかな違いと、それぞれのコミュニケーション方法について知っていただければと思います。
まとめ

最後に失語症と構音障害についてのまとめです。繰り返しになりますが、失語症は言葉に関する全てが苦手もしくはできなくなる。いきなり外国に行ってしまってコミュニケーションがとりづらくなった状況。
構音障害は麻痺や失調症状を原因として、発音が悪くなった状況。
でも実際の臨床では難しいケースも多く他職種が鑑別するのは難しいことも多いです。
鑑別に関しては身近な言語聴覚士を頼って、その後のコミュニケーション方法について意識して頂ければと思います。