こんにちは。STケアマネのナカマル@NBTKST2222です。
10年間ほど言語聴覚士(ST)として飲み込みや言葉の訓練のプロとして仕事をしていました。
現在は、言語聴覚士でありケアマネージャーであり、現場の介護スタッフとして介護施設で働いています。
このブログでは、介護・医療職が悩みがちな
○臨床(言語聴覚士の専門の1つである摂食・嚥下を中心)のこと
○お金に関係すること
○職場の人間関係について
について発信しています。
病院では様々な原因の嚥下障害の患者さんと関わる機会がありますが、その中で「このケースはどのように考えようかな・・・」と悩むケースは多いはず。そこで今回は自分がSTになりたての頃に色々と悩んだケースを少しアレンジしてブログで紹介したいと思います。Sリハ塾のyoutubeにも投稿しているのでそちらも参考にしてみてください!
youtubeはこちらから視聴下さい👇
(165) こんなケースはどうする?嚥下障害の症例検討PART2 – YouTube
また、嚥下障害の症例検討パート1も是非、読んでみてください。
事例紹介

今回の事例紹介は遷延性意識障害のある方に対して、「ご家族から経口摂取の希望があった時にどうするか」をテーマに考えたいと思います。年齢が若いこともあり、ご家族からの強い希望があるケースです。気持ちは分かるものの、果たして重度の意識障害のある方に経口摂取を進めていっていいのか。。。
youtubeでも解説していますが、ブログの方が少し詳しく解説していきます。
遷延性意識障害とは
今回のケースのキーワードである遷延性意識障害とはどのような状態を指すか。
遷延性意識障害では、3か月以上に渡って自分で移動することができず、食事や排泄、発語などで介助が必要な状態を指します。
遷延性意識障害の原因としては、脳卒中や頭部外傷、一酸化炭素中毒など脳に大きなダメージが生じた場合になります。
ここで事例に対して疑問に思った方もいるはず。
「入院後1か月経過して」←発症から1か月だと遷延性意識障害とは言いませんね。(3か月以上意識障害の状態が続いた場合が遷延性意識障害となるため)
ここでは、発症から3か月以上が経過して、別の病院から転院してきたと解釈するようにしてみてください。(ごめんなさい)
このケースでのポイントは?

このケースでのポイントはどこにあるのか。3つ挙げています。
①意識障害の改善は今後も難しい
意識障害の改善は今後も難しい。なぜここがポイントになるのか。この先、意識障害の改善が見込みるのであれば、意識障害が改善してから訓練をした方がより安全性が高いからです。後からも述べますが、意識障害のある方に対する嚥下訓練はやはりリスクはあります。
ですが、遷延性意識障害の意識レベルが回復するケースはかなり稀と言えます。意識障害が改善してから=いつまでたっても訓練ができないとなってしまう可能性が非常に高いと言えます。
②全身状態は安定している
全身状態が安定しているかどうかは非常に大事なポイントです。炎症値が高かったり、熱の上がり下がりが激しかったり、血圧が不安定だったり。このような状態であれば、リスクを負って経口摂取をすすめるのは難しいと言えます。逆に言うと、上記で述べた意識障害とは逆の考えで、数日から10日間ほど待って、全身状態が安定するのであれば、それから訓練を進めればいいということです。ここは焦りすぎずにいいところですね。今回のケースは全身状態が安定しているので経口摂取を進めやすいと言えます。
③胃瘻造設されており栄養状態が良い。
栄養状態がいいかどうかも大事なポイント。何故なら、栄養状態が悪いと免疫力が低下して誤嚥性肺炎の発症リスクが上がるためです。胃瘻をしており、栄養状態が良いのであれば問題ないのですが、仮に絶食が続いていたりして栄養状態が良くない場合は積極的な訓練はこの時点では避けた方がいいと言えます。ここも「全身状態」の時と同じ考えで、栄養状態が改善する見込みがあれば、改善してから訓練に踏み切ればいいと考えていいと思います。今回のケースでは栄養状態が良いとしているので、経口摂取を進めやすいと言えます。
また、胃瘻造設をしているからこそ、少量のみ口から食べるという選択を取ることができます。胃瘻があるからこそ、無理をしなくていいというのは非常に大事なポイントです。
ポイントの総括
意識障害の改善は今後も難しい→改善してからではいつまでたっても訓練ができない可能性が高い。逆に言うと、経口摂取ができない理由にはならない
全身状態は安定している→安定しているとき今こそ、訓練を進めるチャンスと言える
栄養状態が良い→栄養状態が良いし、無理をして口から食べる必要もない。可能な範囲で少量ずつ訓練を進めるのに最適と言える。
結論として訓練を進めていいのではないかと個人的には考えます。
意識障害があると経口摂取はできないのか?

一般的には意識障害があると経口摂取を進める訓練、いわゆる直接的な嚥下訓練は積極的には行わないことが多いです。例えば、脳卒中で意識障害があった場合は、発症すぐは意識障害があったとしても、発症してから徐々に意識障害が改善してくる可能性があるからです。先ほども述べましたが、意識障害の改善の見込みがあるのであれば、ある程度改善してから訓練に臨んだ方が、誤嚥性肺炎にはなりにくいです。ただ、今回は遷延性意識障害のため改善が困難。
では意識障害があったら絶対に経口摂取はできないのか。そうではありません。意識障害の改善が難しくても、少量ずつであれば口から食べることが出来る可能性はあります。
何故なら、嚥下反射=いわゆる「ごっくん」とする喉の動きは反射であり、意識障害があっても、唾を飲みこんだりしているからです。勿論、全ての意識障害のケースで大丈夫と言うわけではありません。ですが、意識障害があっても、ごっくんとできるケースが多いのも事実。もし、この嚥下反射が保たれているのであれば、少量ずつの経口摂取の訓練が進められる可能性があります。
経口摂取の評価をするなら何を使う?

さて、経口摂取の訓練が少しずつ進めていくという方針を立てたとして、次のポイントです。訓練で何を使えばいいのか。これもかなり悩む方がいると思います。
一般的に重度の嚥下障害の方に対しては、ゼラチンのゼリーを使用することが多いのではないかと思います。嚥下訓練用として開発されているゼリーはいくつか商品があるのでどこかで解説したいと思います。
今回のケースでは意識障害があるということで、固形物であるゼリーは個人的には選択しません。何故なら、意識障害の影響で意図時に口や舌を動かす事ができず、固形物がそのまま口に残ってしまう可能性が高いからです。
ここで選択するのはトロミ付きのジュースです。とろみ付きのジュースであれば、舌を動かさなくても、ゆっくりと喉の方にジュースが流れていき嚥下反射が惹起される可能性があります。
この嚥下反射の時に口が開いたままであったり、下顎が下がったままの場合は、リスクのある飲み込み方をしているので慎重に進める必要があります。
出来たら、訓練をする前は、ブラッシングをして飲み込むための準備体操や、口腔内の細菌を減らしたうえで取り組むようするようにして下さい。
どのように訓練を進めるか
トロミ付きの液体(ジュース)を使用するとして、ここからはどのように訓練を進めるか。
まずは訓練開始時は、量を少なくするところからがポイントです。
訓練ができると判断をしても、遷延性意識障害があるという時点で誤嚥性肺炎のリスクは高いです。いきなり量が多いと、誤嚥性肺炎を起こしやすく、重度化させてしまうリスクもあります。少量ずつ始めることで、誤嚥性肺炎の重度化を防ぐことになるのです。
量を図りながらするのにはシリンジを使用すると評価がしやすいです。
注意すべきポイントは?
少しずつ量を増やす中で、痰が増えてこないか。(増えるのが当たり前ですが、予想以上に増えていないか)、発熱していないか、呼吸数の変化がないか。など小さな変化点も気にするようにしましょう。
やはり、誤嚥性肺炎には細心の注意を払いながら訓練を進める必要があります。
また、遷延性意識障害の方は、気管切開をしてカニューレを装着している方も多いです。もし、カフ付きカニューレを装着している方であれば、最初はカフを入れた状態でカフの上部に経口摂取したジュースが流れていないか確認しながら進めていくといく必要があります。
カニューレに関して詳しく知りたい方はSリハ塾のカニューレの動画も参考にしてみて下さい。
今回の症例検討のまとめ

今回の症例検討のまとめです。
意識障害があっても、慎重にすすめることで全く経口摂取ができないわけではありません。
実際に私が担当した遷延性意識障害の方は、とろみ付きのジュースや、ゼリー、プリンなどを少量ずつ食べられるようになり、最終的にはご家族の介助で食べられるようになりました。
個人的に残念なのは、退院or転院した後に今までしていた訓練が継続してもらえないことです。その点、家族の協力があれば、継続してもらいやすいというわけです。
是非、ご家族が経口摂取に関われるところまで、進めていただければと思います。